ハロウィンになると、街のあちこちに現れるオレンジ色のカボチャ。
三角の目に、大きく裂けた口。中に明かりを灯した「ジャック・オー・ランタン」は、今ではハロウィンを代表する存在です。
ところが、このランタンはもともとカボチャではありませんでした。使われていたのはカブなどの根菜です。
さらに「ジャック」という名前にも、少し怖い物語が隠されています。
この記事では、ジャック・オー・ランタンの由来、悪魔をだましたジャックの伝説、なぜカブからカボチャへ変わったのかを、アイルランド国立博物館などの資料をもとに紹介します。
ジャック・オー・ランタンとは?
ジャック・オー・ランタン(Jack-o’-lantern)とは、現在では主にカボチャの中身をくり抜き、顔を彫って明かりを灯したハロウィンのランタンを指します。
ただし、そのルーツをたどると、現在の姿とはかなり違います。
| 現在 | 昔 |
|---|---|
| 主にカボチャ | カブなどの根菜 |
| オレンジ色 | 白っぽいものも多い |
| ハロウィンの飾り | 灯り・魔除け・人を驚かす道具 |
| 愛嬌のある顔も多い | 不気味な顔が多い |
アイルランド国立博物館によると、アイルランドではハロウィンにカブをくり抜き、怖い顔を作ったランタンが使われていました。
現在一般的なカボチャ版は、そこからアメリカで発展したものです。
つまり、「ハロウィンだから昔からカボチャを彫っていた」というわけではありません。
ジャック・オー・ランタンの由来となった「ジャック」の伝説
名前の由来としてよく知られているのが、アイルランドに伝わる**Stingy Jack(けちなジャック)**の物語です。
ただし、最初に知っておきたいことがあります。
このジャックは、歴史上の実在人物として確認されている人物ではありません。
あくまで昔から伝えられてきた民間伝承の主人公で、物語にもいくつかのバリエーションがあります。
悪魔をだましたジャック
昔、ジャックという素行の悪い男がいました。
ジャックはずる賢く、悪魔を何度もだまし、自分の魂を地獄へ連れていかないよう約束させたといいます。
やがてジャックにも死が訪れました。
しかし、生前の行いが悪かったため天国には入れてもらえません。
それなら地獄へ――と思っても、そこにはかつて約束をさせた悪魔がいます。
悪魔はジャックの魂を受け取ろうとしませんでした。
こうしてジャックは、
天国にも行けない。
地獄にも行けない。
行き場所を失ってしまいます。
暗闇の中をさまようことになったジャックに、悪魔は火を与えました。
ジャックはその火をくり抜いたカブに入れ、灯りにした――。
これが、現在知られているジャック・オー・ランタンの物語です。
Library of Congress(米国議会図書館)も、アイルランドのカブを彫る風習と、悪魔をだましたジャックの伝説をジャック・オー・ランタンの由来として紹介しています。
ただし、悪魔をどのようにだましたのかなど細部には複数の伝承があります。
「これが唯一の原作」という物語があるわけではないことは覚えておきたいところです。
実は最初からカボチャではなかった

ジャックの物語でランタンになっているのも、カボチャではなくカブです。
アイルランドやイギリスでは、ハロウィンの時期にカブなどの根菜をくり抜き、不気味な顔を彫って中に火を灯す習慣がありました。
Smithsonian Magazineによると、カブだけでなく、地域によってはジャガイモやビートなども使われていたとされています。
今のカボチャのランタンより、かなり身近な野菜を利用していたわけです。
そして顔は、かわいいというよりかなり怖め。
暗い夜道で、白いカブの顔の中から火が揺れていたら――。
現代のオレンジ色のジャック・オー・ランタンより、こちらのほうがよほど怖かったかもしれません。
ちょっと一息|昔のジャック・オー・ランタンは本当に怖い
現在のジャック・オー・ランタンには、笑った顔やかわいらしいデザインもあります。
ところが昔のカブ版は、細長い顔に深くくぼんだ目と口。
暗闇で火を灯した姿は、かなり不気味です。
これは単なる想像ではありません。
アイルランド国立博物館には、実際に昔のカブ・ランタンをもとに作られた資料が残っています。
なぜカブからカボチャになった?
それでは、いつカボチャになったのでしょうか。
大きな転機になったのがアイルランドやスコットランドからアメリカへの移民です。
19世紀半ばには、アイルランドやスコットランドから多くの移民がアメリカへ渡り、故郷のハロウィンの習慣も持ち込みました。
そこで使われるようになったのが、アメリカで身近だったカボチャです。
HISTORYは、アイルランド移民がランタンを作る習慣をアメリカへ持ち込み、そこでカボチャ版のジャック・オー・ランタンがハロウィン文化の一部になったと説明しています。
アイルランド国立博物館も、現在広く見られるカボチャのランタンをアイルランドの習慣がアメリカで発展したものとしています。
つまり、
アイルランドなどのカブのランタン
↓
移民によってアメリカへ
↓
カボチャを使うようになる
↓
現在のジャック・オー・ランタンへ
という流れです。
私たちが「昔からハロウィン=カボチャ」と思っている姿は、長い歴史の中では後から定着したものだったのです。
「Jack-o’-lantern」という名前はカボチャより古い
ここには、もう一つ面白い事実があります。
Jack-o’-lanternという言葉は、もともとカボチャそのものの名前ではありませんでした。
Online Etymology Dictionaryによると、17世紀には「Jack with the lantern(ランタンを持つジャック)」にあたる表現が見られ、18世紀にはJack-o’-lanternという形が使われています。
当初は、夜の湿地などに見える怪しい光――いわゆる**鬼火(will-o’-the-wisp)**のようなものを指す名前でもありました。
一方、英語で「くり抜いたカボチャのランタン」を指す用例は、19世紀に確認されます。
つまり、
言葉が先にあり、後からカボチャのランタンと強く結びついた
と考えると分かりやすいでしょう。
「ジャックというカボチャのお化けがいて、その名前からランタンが生まれた」と考えると、少し順番が違うのです。
本当に昔のカブのランタンが残っている
「昔はカブだった」と聞いても、昔話だけのように感じるかもしれません。
ところが、ちゃんと物的資料があります。
アイルランド国立博物館のIrish Folklife Collectionには、**Ghost turnip(幽霊カブ)**と呼ばれる資料が収蔵されています。
これは、アイルランド北西部ドニゴール県フィンタウンの学校教師が1943年に博物館へ提供したカブのランタンをもとに作られた石膏模型です。
提供者によると、その地域では1900年ごろに作られていたタイプだったといいます。
顔には深い目や口が彫られ、現在の陽気なハロウィン飾りとはずいぶん雰囲気が違います。
博物館によれば、カブの中にはロウソクを入れ、10月31日の夜に人を驚かすためにも使われていました。
「昔はカブだった」という話には、実際に残された資料があるのです。
ジャック・オー・ランタンにはどんな意味がある?
昔のランタンには、現在のインテリアとは少し違った役割がありました。
カブなどをくり抜き、中に火を入れ、
- 暗い道を照らす
- 人を驚かす
- 不吉な存在を遠ざける
といった使われ方をしていたことが資料から分かります。
Smithsonian Magazineも、怖い顔を彫った根菜のランタンを家の外に置いたり持ち歩いたりすることが、邪悪な存在から身を守る意味を持っていたと紹介しています。
現在では宗教的・民俗的な意味よりも、ハロウィンの装飾として楽しまれることが多くなりました。
しかし、その笑ったカボチャの顔の奥には、暗い夜を照らし、見えないものを恐れていた人々の暮らしが残っています。
そう思って眺めると、いつものジャック・オー・ランタンも少し違って見えてきます。
ジャックの物語を子どもと読んでみるなら
ジャック・オー・ランタンの由来を物語として楽しみたい場合は、童心社の紙芝居『ハロウィンのかぼちゃ』があります。
ますいさちみ脚本、スズキコージ絵で、アイルランドに伝わるジャックと悪魔の物語をもとにした12場面の紙芝居です。
「なぜハロウィンにカボチャなの?」と子どもに聞かれたとき、説明するだけでなく物語として楽しみたい家庭に向いています。
よくある質問
ジャック・オー・ランタンを英語で書くと?
Jack-o’-lanternと書きます。
表記には多少の違いがありますが、この形が一般的です。
ジャック・オー・ランタンの「ジャック」は実在した人?
実在人物だったことを示す確かな資料は確認されていません。
「Stingy Jack」と呼ばれる人物は、アイルランドなどに伝わる民間伝承の主人公として扱うのが適切です。
なぜカボチャを使うの?
もともとはアイルランドなどでカブなどの根菜が使われていました。
移民によって習慣がアメリカへ伝わり、そこでカボチャを使ったランタンが広まりました。
昔のジャック・オー・ランタンは本当にカブだった?
はい。
アイルランド国立博物館には、1900年ごろに地域で作られていたタイプを伝えるカブのランタン資料があります。
ジャック・オー・ランタンは魔除け?
魔除けや悪い存在を遠ざける意味を持つランタンとして使われた例があります。
ただし、地域や時代によって用途や伝承は異なるため、「すべてが同じ意味だった」と考えないほうがよいでしょう。
まとめ
ジャック・オー・ランタンは、最初からオレンジ色のカボチャだったわけではありません。
その背景には、悪魔をだましたジャックの伝説と、アイルランドなどでカブをくり抜いて灯りを作った習慣があります。
やがてその文化がアメリカへ渡り、カブからカボチャへ。
そして世界中で知られるハロウィンのシンボルになりました。
しかも「Jack-o’-lantern」という言葉そのものは、現在のカボチャの飾りより古い歴史を持っています。
毎年なんとなく目にしている笑ったカボチャ。
今年のハロウィンには、その向こうに、カブのランタンを手に暗闇をさまようジャックの物語も思い出してみてください。
参考文献・出典
- National Museum of Ireland「Ghost turnip」
- National Museum of Ireland「Ghost turnips, the púca, fortune-telling and evil abductions」
- Library of Congress「The Origins of Halloween Traditions」
- Smithsonian Magazine「When People Carved Turnips Instead of Pumpkins for Halloween」
- HISTORY「How Jack O’Lanterns Originated in Irish Myth」
- Online Etymology Dictionary「Jack-o’-lantern」
- 童心社『ハロウィンのかぼちゃ』

