『薬屋のひとりごと』を見ていると、壬氏をはじめとする「宦官(かんがん)」が登場します。
宦官とは、いったい何者なのでしょうか。
なぜ去勢され、女性たちが暮らす後宮で働いていたのでしょう。
宦官とは、去勢を受けたうえで、皇帝や後宮に仕えた男性のことです。
この記事では、『薬屋のひとりごと』の公式設定と歴史資料をもとに、宦官の役割、去勢された理由、武官との違い、見た目や声、トイレや臭いの疑問まで、ネタバレを抑えて解説します。
なお、『薬屋のひとりごと』は、特定の中国王朝をそのまま描いた歴史作品ではありません。
公式には「大陸の中央に位置するとある大国」を舞台にした物語とされています。
宦官とは?『薬屋のひとりごと』では後宮を管理する男性官吏
宦官とは、歴史上、去勢されて宮廷や後宮に仕えた男性を指します。
『薬屋のひとりごと』の公式サイトでは、宦官について、皇帝や妃、女官以外で後宮に入ることができる男性官吏と説明されています。
後宮には皇帝の妃や侍女など、多くの女性が暮らしています。
そのため、一般の男性官吏が自由に出入りすることはできません。
そこで、去勢された男性を後宮の管理や連絡、身の回りの仕事に就かせたのが宦官制度です。
作品の公式紹介では、壬氏も「後宮で強い権力を持つ宦官」として登場します。
ただし、壬氏の身分や生い立ちには、物語に関わる重要な秘密があります。
ここでは正体には踏み込まず、歴史上の宦官制度を中心に見ていきましょう。
作品そのもののあらすじや魅力については、「『薬屋のひとりごと』とは?後宮謎解き物語の魅力を紹介」の記事でも紹介しています。
宦官はなぜ去勢されたのか
宦官が去勢された大きな理由は、皇帝の妃たちとの間に子どもをつくらせないためです。
後宮の女性との間に子どもをつくらせないため
後宮には、皇帝の妃や側室が暮らしていました。
皇帝以外の男性と妃との間に子どもが生まれれば、皇位を継ぐ子どもの血統が分からなくなってしまいます。
そこで、生殖能力を失わせた男性だけに、後宮内で働くことを認める仕組みが作られました。
『薬屋のひとりごと』の公式サイトでも、妃たちとの間に問題を起こさないよう去勢され、後宮の管理業務にあたると説明されています。
後宮の内部で男性に仕事をさせるため
後宮の運営には、物資の運搬や施設の管理、外部との連絡など、さまざまな仕事が必要です。
しかし、一般の男性官吏を後宮へ自由に入れるわけにはいきません。
そのため宦官は、女性だけでは対応しにくい仕事を担い、後宮と外の宮廷をつなぐ存在にもなりました。
皇帝の近くで働く機会が多かったため、一部の宦官が強い影響力を持つこともありました。
ただし、去勢すれば必ず忠実になる、陰謀を起こさなくなるという意味ではありません。
実際には、宦官もそれぞれ異なる考えや立場を持つ人間でした。
宦官になるときはどこを切ったの?
宦官になるための去勢方法は、時代や地域によって異なりました。
精巣を取り除く方法もありましたが、中国王朝時代の一部では、陰茎と陰嚢を含む外性器全体を切除する方法も行われていました。
そのため、「宦官は全員が同じ手術を受けた」と一括りにはできません。
また、当時は現代のような麻酔や衛生管理が整っていなかったため、手術には強い痛みや出血、感染、排尿障害などの危険が伴いました。
宦官は後宮でどのような仕事をしていた?
宦官の仕事は、時代や国、本人の地位によって異なります。
主な役割は、次のようなものでした。
| 仕事 | 主な内容 |
|---|---|
| 後宮の管理 | 出入りや施設、物資、人員の管理 |
| 身の回りの世話 | 皇帝や妃の生活を補佐する |
| 連絡や伝達 | 後宮と外廷の間で命令や情報を伝える |
| 事務・雑務 | 記録、会計、物品の運搬など |
| 特別な任務 | 皇帝の使者や外交任務を任されることもあった |
歴史作品では、宦官が政治を動かす陰謀家として描かれることがあります。
しかし、そのような権力を持てたのは一部です。
大半の宦官は、宮廷を日常的に動かすための実務を担っていました。
宦官と武官・文官の違い
『薬屋のひとりごと』を見ていると、「宦官」と「武官」の違いが分かりにくく感じることがあります。
簡単に分けると、次のようになります。
| 呼び方 | 主な仕事 | 働く場所 |
|---|---|---|
| 宦官 | 後宮の管理や宮廷内の仕事 | 主に後宮・内廷 |
| 武官 | 軍事、警備、戦闘 | 主に外廷や軍 |
| 文官 | 行政、記録、政治 | 主に外廷 |

武官だから去勢されるわけではありません。
武官は軍事を担当する官吏で、通常は去勢を条件とする身分ではありません。
一方、作品に登場する高順は、公式サイトでは壬氏のお目付け役を務める武官と紹介されています。
同時に、後宮の中では壬氏と同じく、宦官として任務にあたるという少し特殊な立場です。
つまり、「武官」と「宦官」は、まったく同じ基準で分けられた呼び名ではありません。
武官は仕事の種類を表し、宦官は身体的な条件と宮廷内での立場に関係する呼び名です。
宦官の見た目や声は変化した?
去勢による身体の変化は、手術を受けた年齢や方法によって異なります。
思春期より前に去勢された場合は、男性ホルモンの影響が弱くなるため、声変わりが十分に起こらず、高い声が残ることがあります。
ひげや体毛が少なくなったり、筋肉の発達や脂肪のつき方が一般の男性と異なったりする可能性もあります。
『薬屋のひとりごと』の公式サイトでも、宦官になると肉付きがよくなり、声が高くなるなどの身体的変化が見られることがあると説明されています。
ただし、成人してから去勢された人もいます。
手術を受けた時期や体質には個人差があるため、すべての宦官が同じ声や体格になったわけではありません。
また、「宦官特有の顔つき」があり、顔を見れば必ず分かったと断定できるものでもありません。
宦官はトイレをどうしていた?臭いは本当?
宦官も、手術後に残された尿道の開口部から排尿していました。
ただし、去勢の方法は時代や地域によって異なります。
精巣だけを取り除く場合もあれば、中国の一部の時代では、より広い範囲を切除する方法も行われました。
当時は現代のような麻酔や衛生管理が整っていません。
そのため、出血や感染症だけでなく、尿道が狭くなる、尿が出にくくなる、尿漏れが起こるなどの合併症が生じることがありました。
こうした排尿障害を抱えた人の場合、衣服に尿が付着して臭いの原因になった可能性はあります。
しかし、宦官は全員臭かったという意味ではありません。
手術の状態、排尿障害の有無、衛生環境には大きな個人差があります。
宦官を低く見る立場から、臭いや外見が誇張して語られた可能性にも注意が必要です。
「宦官には特有の臭いがあった」と一括りにするのではなく、手術後の合併症を抱えた人もいた、と理解するのが適切でしょう。
宦官は全員が権力者だったわけではない

中国の歴史では、皇帝の信頼を得て政治に影響を与えた宦官が知られています。
そのため、宦官というと、皇帝を操る権力者や陰謀家を思い浮かべる人もいるかもしれません。
しかし、実際の立場や生活は一様ではありませんでした。
清朝の宮廷宦官を調べた研究では、多くの宦官が読み書きのできない労働者であり、宮廷での厳しい生活から逃亡する者もいたことが紹介されています。
権力や財産を得られた人は、宦官全体の一部にすぎません。
一方で、明代の鄭和(ていわ)のように、皇帝の命を受けて大規模な航海を指揮し、外交面で大きな功績を残した宦官もいました。
宦官をすべて悪人や陰謀家として見るのではなく、宮廷で働いた多様な人々として考えることが大切です。
私が宦官という存在を初めて知ったのは、韓国ドラマ『王と私』を見たときでした。
王宮を支えながら、厳しい制度と身分の中で生きる人々の姿が印象に残り、宦官の歴史を調べるきっかけになりました。
よくある質問
宦官について詳しく知る本
宦官制度の歴史や、皇帝の側近が政治に与えた影響をさらに詳しく知りたい方には、三田村泰助著『宦官―側近政治の構造』があります。
中国史を中心に、宦官がなぜ皇帝の近くで働き、どのように力を持つことがあったのかを考えるための一冊です。
販売状況や価格は変動するため、最新情報はAmazonの商品ページで確認してください。
まとめ
宦官とは、去勢を受け、皇帝や後宮に仕えた男性です。
『薬屋のひとりごと』の世界では、一般の男性が入れない後宮を管理し、妃や女官たちの生活を支える役割を担っています。
特に覚えておきたいポイントは、次のとおりです。
- 去勢された主な理由は、皇帝の妃との間に子どもをつくらせないため
- 宦官は後宮の管理、連絡、事務などを担当した
- 武官は軍事を担当する官吏で、通常は去勢を条件としない
- 声や体格の変化には個人差があった
- 排尿障害を抱えた例はあるが、全員が臭かったわけではない
- 権力を持った宦官は一部で、多くは宮廷の実務を担っていた
宦官の役割を知ると、壬氏や高順の立場、後宮と外廷の違いも、これまでより分かりやすくなります。
参考文献・出典
- アニメ『薬屋のひとりごと』公式サイト「Keywords」
- ヒーロー文庫『薬屋のひとりごと』公式ページ
- Jacqueline T. Engほか「Skeletal effects of castration on two eunuchs of Ming China」Anthropological Science
- Melissa Dale「Running Away from the Palace: Chinese Eunuchs during the Qing Dynasty」
- メトロポリタン美術館「China, 1400–1600 A.D.」
- 三田村泰助『宦官―側近政治の構造』

